あなたの身近にあるコンピュータ犯罪 (完)
前回の話のつづきを書きたい。これで締めたいと思う。
友人Wはその核心までは掴んでいなかったようで、必死に理解を求めるためにビデオを持ち出したわけだ。早速、小生はビデオを借りて観ることになる。
一連のビデオを観ながら、点となった周辺事実を思い出し、頭の中で思考実験を繰り返す。突然、その悶々したものが頭の中で線となってスパークし、帰結することになる。
「相対論によれば空間は時空連続体であり、一般相対性理論では、その時空連続体が均質でなく歪んだものになる。つまり、質量は時空間が歪ませることによって、重力が生じると考える。そうだとすれば、大質量の周囲は時空間を歪ませることによって、光は直進せず、また時間の流れも影響を受ける。」 - Wikipedia 引用文献 -
原価率の決まり方だが、一般的にコンビニエンス・ストアではカテゴリ(弁当類、チルド類、雑貨類、文房具等々)ごとに、つまり仕入先ごとにフランチャイズ本部側の一括購入によるバイイングパワーで格安に仕入れている。
当然ながら、そのバック・リベートも加盟店側への戻りとなるのが公正な取引きだがこの場では核心から外れるので触れない。
利ざやの大きい商品カテゴリを質量の大きな物質であると考える。商品販売の原価率に対する影響は、限られた陳列スペースで売れる商品の回転率(時間)であり、その商品の粗利益率(質量の大きさ)となる。それでは再びあの原価率の式を観て頂きたい。
原価率 = (期首棚卸原価高+当期仕入原価高)
÷ (期首棚卸売価高+当期仕入売価高)
この分母となる要素に注目する。
『期首棚卸売価高』は要するに前期の売れ残り商品の売価総額(販売価格での総額)となる。
『当期仕入売価高』は要するに新規商品の投入や欠品の補充が不確実な在庫数を充足させる仕入品の売価総額となる。
問題の核心は、『期首棚卸売価高』にある。この要素は店舗が経営を継続する間はずっとある一定の原価率に引き寄せる力を発生させるのだ。まさに大きな質量をもつ物質が時空間を捻じ曲げるように、原価率を歪曲させるのである。
例えば、文房具類は商品回転率は低いが粗利益率が高いカテゴリである。陳列棚いっぱいに文房具類を不良在庫として抱えることは、原価率を大きくするような力、つまりあたかも利益が水増したかのように数値誘導の力が働くことになる。
加盟店オーナーにはまったく想定外の笑えぬ現象なのである。
極論をいえば、本部側が売れない商品で粗利益率の高い商品を送り込みさえすれば、店舗の売上げなど御構い無しに、任意に定まる原価率で一定以上のロイヤリティ料を確保して、債務を膨らませ、悪意な『オーナー転がし』を意図的に演出できるのである。
原価率70%とする「さじ加減」が『当期仕入売価高』であり、車のアクセルとブレーキのような役割を果たすことになる。
大量のデータ処理が成せる大型コンピュータが皮肉にも不採算店舗の利益を水増しするなど赤子の手を捻るが如きなのだ。
ちなみに不採算店舗とは損益分岐点を下回った店舗のことである。事実、98%に近い割合の店舗が不採算店舗なのだ。
加盟店オーナーは短期間の研修は受けるが、もともと小売りにはど素人なものたちである。
まして元本部社員で店舗指導員であったものが加盟店オーナーとして独立し、経営に行き詰まるケースもあるレベルだ。
皮肉なことに統計的に集計したデータにはFC加盟店のほうが本部直営店よりも経営指標(売上げ、商品廃棄費など)の数値はFC加盟店のほうが本部直営店よりはるかに優れているのだ。
そのような環境で本部側システムが加盟店オーナーに気付かれずに特定商品を任意の在庫数に仕入れをコントロールするのだから、まさに確信犯なのだ。
複数の加盟店オーナーから本部発注しない商品が強制仕入れされていたという証言を多く得ている。
ひどいケースでは、まったくの片田舎でホワイトカラーの労働者のいない地域の店舗にワイシャツが大量に強制的に仕入れられたという証言もあった。
少量多品種の販売が抱えるデータ処理能力、それ故に与えられた販売管理システムは皮肉にも加盟店オーナーへの精神安定剤であり、その中心となる本部側コンピュータは悪意ある方程式を坦々と情け容赦なく店舗負債を増大させ、安定的にロイヤリティ徴収する道具として利用されたのだ。
今振り返り思うことは、当時の集団訴訟で利用した経営指標の損益分岐点や経営安全率など、加盟店オーナーの経営能力という抽象論でグレーゾーンへ本部側が一蹴できるほどの価値でしかなかった。
また、必ず発生する商品廃棄費にロイヤルティの掛かるという理不尽さでさえ、この悪徳商法の氷山の一角なのである。
その裏側にある、もっと悪質なすべてを腐蝕させる欺瞞的システムが本丸であり、それが集団訴訟の和解という結果で生き残ることになったわけである。
本丸を落とせなかったことは、まったく歯がゆい思いである。
司法の世界では善し悪しの判断が到底引き寄せることもできない現実があることを痛いほど思い知る。
コンピュータ犯罪が高度かつ複雑化するなか、有識者の才量へ依存することに変わることは無いであろう。
我思う。技術者の端くれとして。
科学の進化には、必要悪の存在も許容しなければならない。
大宇宙の均衡がとれているのこともダーク・エネルギーやダーク・マターの存在することによる仮説がある。
人の心には鬼が棲むのである。
人類の幸せのため、この必要悪の産物を絶えず対峙しながら一歩先の科学技術の進歩を切望しなければならない。
近未来、コンピュータ・サイエンスの人工生命また人工知能分野の進化、そのなかでハイパーにシステム化された倫理的モデルの創出が唯一の救世主なのかもしれない。
公正な社会基盤の形成のために。明るい未来を、我祈る。
掛け替えのないに人生を狂わらせられた親愛なる君、実弟へ捧げる。
サク